«  1  2  3  4  5  6  7  8  9  10  11  12  13  14  15  16  17  18  19  20  21  22  23  24  25  26  27  28  29  30 »
 六月はものの産月。地は喘ぐ。
木立の下に立って耳を澄ますと、
微かにそのうめきを聞く。
木も草も延びる、茂る。

 椎、樫、楡、欅などの大建築は
新しい緑の窓掛をかけて、
丸々と大気の中に盛れ上る。

 草山の斜面には白い日傘をさして、
山百合が散歩する。
つつじの一団が緋毛氈を敷いて
弁当を食べる。

 小道に沿う垣根の野ばらの香水店。
その隣には毒だみの紺絣の店が続く。
あやめを刺繍した田川の土橋を渡ると、
矢車草や雛罌粟(ひなげし)の
モスリン友禅の窓飾り。
そこにはまた輝く麦の黄八丈。
苗代田の蚊帳も拡げられる。

 日が入ると河原一面に月見草の電灯がつく。
蛍がネオン灯をともす。やがて何処からともなく聞こえる
地虫のブザーを合図に、芥火の煙にかすむ朧月の
シャンデリアのともった森の講堂からは、梟の放送が始まる。

 この老儒は語る──たとえ私の言葉は解らなくとも、
私の声を聞く程の人はそれでそのまま存在の秘密に当面する者だ。
それでそのまま幽玄の実体に触れている者だ。──そうだ、あの
不可解の問題をこの老学人は言葉では説かなかった。
ほんの一とか声か二た声ではあったが、
くり返しくり返しこのなぞを説きあかしていた。

 それから姿のない鳥、水鶏(くいな)と時鳥(ほととぎす)が、
人々の浅い眠りの上に微かな幾片かの音譜を撒いて行く。


河井 寛次郎 『火の誓い』 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)
2008.06.30 Comment:1 | TrackBack:0

 疲れ果てた時の、疲れた心よ、

 善・悪の網をきっぱりと切って、来い、

 再び笑え、心よ、灰色の薄明のなかで。


 お前のアイレは、いつまでも若い、

 露はいつも輝いて、薄明は灰色だ、

 中傷の火に焼かれながら、

 希望はなく、愛も失われていくけれど。

 来い、心よ、丘が丘に重なるところへ、

 そこには、虚ろな森と、丘をなす森の、

 神秘的な兄弟たちがいる、

 そこでは変わっていく月がその意思を遂げ、

 神は佇んで寂しい角笛を吹き、

 「時」と「この世」とはいつも飛びさり、

 愛よりも灰色の薄明が優しく、

 希望よりも朝の露が親しいところなのだ。


W.B.イエイツ『 ケルトの薄明』井村君江訳/ちくま文庫
2008.04.19 Comment:0 | TrackBack:0
わたしは自然が語ることば、

それを自然はとりもどし

その胸のうちにかくし

もう一度語り直す。

わたしは青空から落ちた星、

みどりのじゅうたんの上に落ちた星。

わたしは大気の力の生んだ娘、

冬には連れ去られ

春には生まれ

夏には育てられる。

そして秋は私を休ませてくれる。


わたしは恋人たちへのおくりもの

また婚礼の冠でもある。

生者が死者に贈る最後のささげものも

わたし。

朝がくると

わたしとそよ風は手をたずさえて

光来たれり、と宣言する。

夕には鳥たちとわたしは光に別れを告げる。


わたしは野の上にゆれ動き

その飾りとなる。

わたしの香りを大気にただよわせ、

眠りを深くし、

夜のあまたの眼はわたしをじっと見守る。

わたしは露に酔いしれ

つぐみの歌に耳を傾ける。

叫ぶ草たちのリズムにあわせて踊り、

光を見るために天を仰ぐけれど、

それは自分の像(イメージ)をそこに見るためではない。

この知恵を人間はまだ学んでいはしない。


『ハリール・ジブラーンの詩 花のうた』神谷美恵子訳
2008.03.23 Comment:0 | TrackBack:0

千山鳥飛絶 千山 鳥飛ぶこと絶え

萬徑人蹤滅 万径 人蹤滅す

孤舟簑笠翁 孤舟 簑笠の翁

獨釣寒江雪 独り釣る 寒江の雪


見渡す限りの山々から鳥の飛ぶ姿が消えうせ、

あらゆる小道から人の足跡も見えなくなった。

ぽつんと浮かぶ小舟ではみのかさ姿の老人が、

たったひとり寒々とした川に降る雪の中、釣り糸を垂れている。

(柳宗元)


静かなオッドアイも、また。

デヴィッド・シルヴィアンの『Blemish』が流れています。
2008.02.02 Comment:0 | TrackBack:0
明日、オッドアイにて詩の朗読イベントがあります。

詩集「最上川」とアイリッシュ音楽の出合い
10月28日(日) 午後2時〜3時
入場料 1000円
(1ドリンク¥100オフ)

音楽 北村 剛
朗読 山崎さよ

(紹介文より)
子ども時代、最上川河畔で育った片岡千歳が
幼き日の父母、兄弟、友人との語らいを
親和力豊かに語りあげた詩集『最上川』
その『最上川』の世界を山崎さよの朗読と
アイルランド音楽のエキスパート北村剛が
アイリッシュ・フルート、ティン・ホイッスルなどで
表情豊かに歌いあげる


ふたば工房より出版されてます、
片岡千歳さんの詩集『最上川』の朗読と、
みなさんご存知、北村剛さんの
アイリッシュ音楽の演奏での一時間です。

店主の個人的な解説ですが、

片岡千歳さんはあの、
街場の良き古書店であった
『たんぽぽ書店』の「おばちゃん」です。

ご存知の方、なつかしく思われる方、
お誘いあわせのうえ、ぜひお越しください。


※ふたば工房のHPにて
たんぽぽ書店のタンポポ便りが見れます。 

ふたば工房 HP↓
http://homepage2.nifty.com/futabakoubou
2007.10.27 Comment:0 | TrackBack:0